どうも、萬朶櫻(@wanduoying)、141朶目の記事です。
いや~最近、なんか景氣が良いのか惡いのか、よう判りませんよね。
將來もなんだか漠然とした不安があり、これからどうなつて行くんやろ…? なんて…
そんな事を考へてゐた折、この本に出逢ひました。
AI(人工知能)は解るけど、BI(ベーシックインカム)つて何ぞや???
どうやらこの本によると、BIといふ政策を導入すると、
- 格差と貧困
- 少子化
- 一極集中(東京などへの)
などが解決できるとか。
なるほど…。これらが解決できたら、未來はずいぶん明るくなりさうですね!
『AI時代の新・ベーシックインカム論』
本書の立ち位置は「BI肯定派」
本書はBIについて、將來的に(といふか今すぐにでも)導入すべき政策だと説いてゐます。
- 生活保護などとの違ひ
- 各國における實驗
- 税金や貨幣發行益による財源確保
- 人工智能(AI)の普及
- その他、政治的思想とBI
こんなことが書かれてゐます。
讀んだところ、だいたいBIへの誤解・偏見を取り除くことに注力してゐる印象でした。
著者情報
参考 井上智洋Wikipadia駒澤大學經濟學部准教授。經濟學者で、マクロ經濟學などが專門。
他の著書は『ヘリコプターマネー(日本經濟新聞出版社)』、『人工智能と經濟の未來(文藝新書)』など。
現代~未來はジリ貧の時代
地方再生は負け戰
本書の最初の見出しがコレ。 て、手嚴しい……!
現代では新しいアイデアやビジネスモデルに對して、多くのお金が流れて行く仕組みになつてゐます。
さういふ仕事をするのは主に大卒の人たち。
新しいアイデアを産み出すためには、彼らが集まつて、對面でコミュニケーションしないといけません。
つまり、多くの人が集まるほど、ビジネス的にはオイシイわけです。
これを「集積のメリット」と云ひます。
シリコンバレーや東京など、都市部に人が集まりやすいのはかういふカラクリがあつたんですね。
地方だと逆に、人が少ないので「集積のメリット」が得られず、魅力的な都市部に人材が流出。
人口が減つて更に人が集まりにくくなる……。
なるほど、このまま成り行きに任せてゐると、どんどんジリ貧になつていくわけですね。
ここで筆者は、拔本的な解決法として、BIを提案してゐます。
止まらない格差、貧困化
現代において格差・貧困が擴大してゐる事は、言ふまでもない事實でせう。
後述しますが、BIはあらゆる人を對象とした、最低限の生活を保障するための制度です。
これによつて格差・貧困問題を、大きく改善できるのではないかと、筆者は主張してゐます。
AI、ITが雇傭を奪ふといふ話
既に身の周りに普及してゐるIT産業。
そして現在進行形で社會に浸透しつつある人工智能(AI)。
世間では「AIが雇傭を奪ふのではないか?」といふ議論が興つてゐますね。
筆者は「AI時代にはBI導入が不可缺」だとし、
AIが人類の知性を超える時、どんな事が起こるのか。BIはどのやうな效果をもたらすのかを論じてゐます。
また筆者は、このAIと雇傭問題に焦點を當てた本『人工智能と經濟の未來 2030年雇傭大崩壞 (文春新書)』を書いてゐます。
ベーシックインカム(BI)は救世主となるか?
ベーシックインカム(BI)とは
子供手當+大人手當=みんな手當(てあて)
ベーシックインカム(basic income)とは最低限所得保障の一種で、政府がすべての國民に對して最低限の生活を送るのに必要とされてゐる額の現金を定期的に支給するといふ政策。
――『Wikipadia』より
このことから筆者はBIを、「子供手當+大人手當、つまりみんな手當」と表現してゐます。
みんなが貰へるといふのがミソですね。
女性でも、男性でも。
生まれたても赤ちやんでも、100歳の高齡者でも。
大企業の社長でも、賣れないミュージャンでも。
誰でも一律に最低限の生活費が口座に振り込まれる。
これがBIです。
ちなみに、筆者は最低限の生活費を「月7萬圓」とし、この金額をBIによつて支給すべきと説いてゐます。
詳しい理由や根據は本文にて。
「勞働」から「生存」を切り離す
現在、「勞働」と「生存」は密接に繋がつてゐます。
働かなければ收入が得られず、飢ゑて死んでしまふ。
職があつて稼げてゐる人は問題ありませんね。
しかし、失業してしまつた人。
あるいはブラック企業に捕まつてしまひ、最低限の收入すら危ふいといふ人。
他にも重い病氣や障碍のために働けない人もゐるかと思ひます。
これは救濟されるべき案件ですよね。
「さういふ人のために、生活保護等があるぢやないか」といふ意見もあるでせう。
ですが生活保護は孔だらけで、受給資格者のうち、8割もの人が受けられずにゐるとか。(そのあたりの事も、本書では再三言及されてゐます)
BIはそのやうな弱者、貧困者を殘さず救濟するための手段。
「働かざる者、食ふべからず」
ではなく、
「働かざる者、飢うべからず」
このやうな社會を實現するものです。
格差、貧困、少子化、一極集中を改善してくれる?
BIは「あらゆる人に必要最低限のお金を給付」制度。
もしかすると貧困問題、格差問題を改善するのではないか? と、BIに對する期待がヨーロッパを中心に高まつてゐます。
單なる期待ではなく、實際に受給者の生活水準が向上したと云ふ實驗結果が多く報告されてゐるとか。
もしかすると少子化も改善できるかもしれません。
それに住んでゐる所に係はらず、最低限のお金が支給されるならどうでせう。
ムリして物價の高い都市部で働かなくとも、生活費の安い地方に移り住むといふ動きが生まれるかもしれません。
さうすれば東京への一極集中も緩和されるのではないか? といふ副産物も期待できますね。
世界中でベーシックインカム(BI)のテストが行はれてゐる
ヨーロッパやアメリカで盛んにテスト
近年は歐米諸國での關心の高まりにより、各國で議論、實驗が行はれてゐます。
カナダでの例、おほむね良好な結果
本書では、主にカナダでのBI實驗を紹介してをり、
- DVの減少
- 育児休暇が長くなる
- 住民のメンタルヘルス改善
など、概ね良い結果が得られてゐることが紹介されてゐます。
これからのテストは「廣く淺く」
本書では「多くの實驗において望ましい結果が示されてゐる」として、
これからは廣範圍で、かつ長期的な實驗が必要だと論じてゐます。
たとへば全國民に1萬圓程度の少額給付するやうな。
そこから少しづつ給付額を増やしていつて、GDPやインフレ率がどのやうに變化するのかを調べるべきだと。
ベーシックインカム(BI)のメリット
- 格差、貧困の輕減
- 少子化への齒止め
- 一極集中の緩和
これらの期待は上で述べたとほりで、本文でもより詳しく書かれてゐます。
他にも必要最低限の生活費が保障されることによつて、賣れないアーティストが夢を捨てずに濟んだりするとか。
サクラ
ベーシックインカム(BI)のデメリットと誤解
BIにもデメリットが考へられてゐますが、本書ではその多くが誤解によるものだと論じられてゐます。
「BIは人々の勤勞意欲を下げて、墮落させる」は的外れ
本文では「BIのデメリットとして、最も頻繁に擧げられるもの」として、
「勞働意欲の低下」
といふ意見が紹介されてゐます。
これに對しては、
_人人人人人人人人_
> 給付額による <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
と、筆者はかう囘答してゐます。
例へば
- 月5千圓しか給付されなかつたら、みんな今までどほり頑張つて働くだらう
- 月50萬圓も給付されたら、みんな會社を辭めて遊びに興じるかもしれない
- つまり「丁度いい」給付額なら、みんないい感じに働き續けるだらう
そのやうな反論をしてゐます。
筆者はその「丁度いい」額として、月7萬圓を想定してゐます。
他にも外國での實驗では、勞働意欲に惡影響を及ぼす結果が出なかつたことも紹介されてゐます。
財源の確保の問題
「財源はどうするのか」「財源が問題だ」
これらの意見を「お決まりの言ひ方」とし、どうすればBIの財源を拈出できるのか。
本書では「税金」と「貨幣發行益」、2つのアプローチから解決策を論じてゐます。
制度惡用者への對策が必要
BIを導入した際に危惧される事案として
クソ男がBI目的で、妻に子供をたくさん産ませて、自分はパチンコ三昧
このやうなケースを豫想してゐました。
しかしどんなに優秀な制度であつても、惡用する人は必ず出てくるもの。
惡用者がゐたとしても、それがBIを導入しない理由にはならないと、筆者は主張してゐます。
本書が描く、BI實現への道のり
BI實現を阻むものとしては、
- 財源を心配する意見
- 「働かざる者、食ふべからず」の勤勞道徳
この2つを擧げてゐます。
本書では、「財源」問題に、大きく紙幅を費やして説いてゐます。
ベーシックインカム(BI)の財源は、「税金」と「貨幣發行益」で
このあたりの話。僕は專門家ではないのであまり詳しく立ち入らないこととします。
大まかに云ふと
「税金」と「貨幣發行益」
この2つのアプローチから財源を拈出可能だと論じてゐます。
税金にしてもどの税金に頼るのか? 所得税? 相續税? 固定資産税?
また聞き慣れない「貨幣發行益」とは何か?
詳しくは本文にて。
またこの財政的な話では、同じ著者が書いた『ヘリコプターマネー(日本經濟新聞出版社)』といふ本でも詳しく書かれてゐます。
筆者「BIは、固定BIと變動BIの二階建てとすべし」
筆者は2種類のBIを擧げて、それぞれの目的と最適な財源について説明してゐます。
そのあたり、詳しくは本書に讓ることとします(といふか、僕が下手に説明するよりも本文を見た方がよろしいかと)。
「怠け者」は救濟されるべきか?
もう1つの反對意見、勤勞道徳については、
そもそも「あくせく働くこと」はそんなに良い事か? といふ問題があります。
實際、本書では見出しに「勞働は美徳か?」と書いたり、「社蓄のみなさんに殘念なお知らせ」といふ煽り文句で、僕たちに疑問を投げかけてゐます。
AIによる勞働代替の件もからめて、詳しく、かつ痛快な内容でした。
他の社會制度との兼ね合ひ
本書では、他の社會制度について紹介し、それぞれBIと比較してどうなのか?
といふことを書いてゐます。
アナだらけの生活保護
とは云つても、主に論じられてゐるのは、性質の近い「生活保護」との違ひについてでした。
本書では「日本においては、生活保護制度が上手く機能してゐない」といふ論調で進んでゐます。
「水際作戰」により、8割の有資格者が受けられず
生活保護の窓口で申請を拒絶されることがあり、これを「水際作戰」と云ふさうです。
たとひ病氣を患つてゐても受理されない場合もあるさうで、これに絶望して、最初から申請に行かない人もゐるとか。
本來なら受給資格があるにも拘はらず、です。
また資格云々とは別に、本人の氣持ちの問題もあります。
受給者
いやいや、そんなこと大つぴらには言へませんね…
これにより、受給資格者の8割が受けられずにゐるとのこと。
すべての人に一律給付されるBIなら、そもそも「水際作戰」がなされる必要性は無く、恥づかしい思ひをすることもありません。
もろもろの調査のために、行政コストが高い
また、せつかく申請が受理されても、行政による資力調査を受けなければなりません。
これは行政から定期的に行なはれるもので、本人のみならず、家族や親戚全員の經濟状況が調査されてしまひます。
親戚一同、全員に行政の聲がかかるといふことで、上で書いたやうな「恥」の問題もありますが…
「恥」のことはともかく、これらの調査のために、多くの行政コストが費やされてゐます。
受給資格者を選別するための調査も含めると、たいへんな額になつてゐるとか。
すべての人に一律給付されるBIなら、不要な行政コストをカットすることができます。
BIの財源にも充てられさうですね。
働きだすと支給額が減らされる「貧困の罠」
生活保護のもう1つの缺點として、「貧困の罠」が擧げられてゐます。
生活保護は、收入を得られない人のために給付されるものです。
なので受給者が運良く職を得て働きだし、收入を得られるやうになると、生活保護受給額が減らされることに。
これは本人からすると「働いたのに收入が増えない」といふ状況になります。
せつかく働いても、これではやる氣が削がれますよね。僕ならぜつたい働かずにグータラしてると思ひます。
これを「貧困の罠」といひます。
貧困の罠は厄介なもので、
受給者
と意氣込んでゐた人でも、
受給者
と拔け出せなくなるさうです。
すべての人に一律給付されるBIなら、所得がいくら増えてもカットされる事がなく、働く意欲が削がれません。
まとめ
この『AI時代の新・ベーシックインカム論』は、BIに關するあらゆる事が網羅されてゐる本でした。
本書を讀んでゐて、面白いなと思つたのは
「BIを給付しても、人は怠け者にならない」し、
「怠け者も一種のハンディキャップであり、救濟されるべきだ」
そして、「BIは、思つた以上に現實的だ」といふことです。
しかしBIを現實のものにできるのか、それとも理想論の中に閉ぢ込めてしまふのかは、結局のところ僕らの價値觀次第ではないかとも實感しました。
具體的に言へば、傳統的な「勤勞道徳」や「儒教的思想」のことです。
これらを、はたして未來まで受け繼いでいくべきか否か…。
本書は主にBIへの誤解を解決し、早期導入を奬める本ですが、
それに加へて、自分が持つてゐた價値觀を、根本から搖さぶられる。
そんな不思議な讀書體驗をもたらしてくれる一册でした。
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